排卵誘発における長期的な効果
インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームは、「The Journal of Clinical Investigation(JCI)」にて、キスペプチンシステムを介して活性化する薬剤「MVT-602」を開発し、体外受精の排卵誘発・卵巣刺激において長期的な効果が得られると発表した。
生殖医療とキスペプチン
キスペプチンは、脳内の視床下部の細胞から放出されるタンパク質であり、生殖ホルモン量を制御し、生殖能力、リプロダクティブ・ヘルス、規則的な月経サイクルにおいて重要であるといわれる。これまで、多年に亘り、生殖医療・不妊治療に用いる目的として、天然型キスペプチン「キスペプチン‐54(KP54)」の研究が進められてきた。
同大学では、先行研究において、体外受精を受ける女性不妊患者を対象に、体外受精過程の排卵誘発・卵巣刺激に天然型キスペプチンを用いて効果を検証してが、天然型の有効性は数時間で消え、効果が短期的であった。
キスペプチンシステムを介して活性化する薬剤
今回、研究チームは、2017年から2019年に掛けて、マースミス病院(英ロンドン)の女性患者24人(18~35歳)を対象に、「キスペプチン‐54」(プラセボ群12人に投与)と「MVT-602」(多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)あるいは視床下部無月経12人に投与)による生殖ホルモン量を比較した。
薬理効果の比較を通じて、「MVT-602」には、「キスペプチン‐54」以上に強力な信号をキスペプチンシステムから誘発することが認められた。「MVT-602」投与により、生殖ホルモン量、特に黄体形成ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)の増加時間が長くなった。
「キスペプチン‐54」は、投与後4.7時間が黄体形成ホルモンの増加ピークとなり、増加時間は12時間から14時間であった。 一方、「MVT-602」では、投与後21時間から22時間で黄体形成ホルモンの増加ピークを迎え、増加は48時間維持された。
「キスペプチン‐54」と比べて、「MVT-602」の薬理効果は約4倍に長くなる。高投与量・長期的投与は不要になるが、リプロダクティブ・ヘルス(生殖機能・能力)を回復させるために必要な生殖ホルモン量に対する刺激は維持される。
特に、視床下部無月経では、「MVT-602」投与により、黄体形成ホルモン量の増加スピードが速まった。なお、PCOSとプラセボ群において、黄体形成ホルモン増加量に大差はないと報告されている。
「MVT-602」は副作用なく、長時間に亘ってキスペプチンを刺激できるゆえ、研究チームは、PCOSや視床下部無月経など女性の生殖機能に悪影響を及ぼす症状を効果的に治療できると考える。
(画像はプレスリリースより)

Imperial College London
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