暑熱曝露による男性不妊
オレゴン大学の研究チームは、「Current Biology」にて、モデル生物であるカエノラブディティス・エレガンス(実験材料として非常に優れた性質をもつ線虫)を用いた実験を通して、微小な体温上昇であっても暑熱曝露によって精子DNAが損傷し、卵子と受精できない精子になると発表した。
ヒト遺伝子のうち約70%は線虫にその原型を認められ、線虫とヒト間は類似の機能をもつといわれる。今回、線虫・ヒト共に、微小であっても気温が上昇することによって、男性の生殖機能・能力が大幅に低下すると報告された。
熱に弱い精子
精子は人体のうち最小の細胞であり、体温より低い温度の環境下にて生産される。精子生産は、生殖可能な年齢に達した以降、生涯に亘って続く。一方、人体のうち最大の細胞である卵子は内部で形成され、一定の温度が維持される。卵子生産は限定的であり、生殖適齢期の一定期間のみとなる。
卵子形成と比べ、熱ストレスの影響を受けやすい。哺乳類の精子生産は気温による影響を受け、猛暑・酷暑など極端な高温により精子生産量は減少し、男性不妊を引き起こす要因になるという。
精子生産に適した温度は、摂氏(C)約32度から35度(華氏(F)90~95度)となり、ヒト体温より少し低い。体温が摂氏1度(華氏1.8度)上昇し、正常値(基準値)を越えた場合、男性の生殖機能・能力は悪影響を受ける。
高温環境と男性不妊には関係性があり、暑熱曝露による男性不妊は、長時間の浴槽入浴、タイトな服・ピッタリとした細めの服、過度の長時間運転などが要因として考えられている。また、暑熱曝露によって男性不妊が生じるメカニズムには、根底に精子損傷、精子と卵子の受精阻害があるが、これまで、メカニズムの解明に至らなかった。
暑熱曝露と精神DNA損傷
線虫を用いた動物モデル実験では、回虫の体温が摂氏2度(華氏3.6度)上昇した場合、高温に晒された回虫の精子は、暑熱曝露を受けていない回虫の精子と比べ、精子形成過程においてDNA損傷は25倍に増加した。DNAが損傷した精子は、卵子との受精が失敗に終わる。
研究チームは、今回の研究を通じて、環境影響が特殊なDNAシーケンスを変化させることが示され、恐らく、活性を制御するタンパク質まで影響を及ぼすと考える。
また、通常環境下および高温環境下における卵子・精子の発達過程を観察したところ、高温環境下の精子は、卵子と比べてDNA損傷量が多くなった。高温環境下の精子DNAでは、次世代ゲノムシーケンシング技術によって特定のトランスポゾン(細胞内においてゲノム上の位置を転移できる塩基配列)が認められ、男性ゲノムは新しく可変的な位置にて検知された。
トランスポゾンは動く遺伝子・転移因子とも呼ばれ、DNA型ではDNA断片が直接転移し、遺伝子情報を変える。また、移転後、DNAは損失する。研究チームは、僅かな体温上昇であっても精子の減数分裂に影響を及ぼし、異常が生じると結論付ける。
(画像はプレスリリースより)

UNIVERSITY OF OREGON
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