妊娠に伴う胸腺の変化
オーストリア科学アカデミー分子生物工学研究所(IMBA)などの国際的な研究チームは、「Nature」にて、妊娠期において、胸腺(胸骨の裏側・心臓の上前部に位置する器官)に重要な変化が起こり、胸腺の変化によって流産や妊娠糖尿病を予防すると発表した。
妊娠に伴い、母体の免疫システムは変化するが、これまで、メカニズムの解明には至らなかった。
今回、オーストリア科学アカデミー分子生物工学研究所(オーストリア)をはじめ、ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)、カロリンスカ研究所(スウェーデン)、ウィーン医科大学(オーストリア)は、胸腺が妊娠中に起こる生理学的変化に関係することを発見した。
妊娠維持と胸腺の受容体「RANK」における関係性
胸腺とは胸腔に存在するリンパ器官であり、T細胞の生成・発達など免疫システムに関与する。研究チームは、胸腺のレセプター(受容体)「RANK」が欠如したマウスを用いた動物モデル実験を通じて、胸腺上皮細胞の一部において「RANK」の発現を認めた。これまで、「RANK」は胸腺に発現することは確認されている。
また、妊娠期間に「RANK」が欠如した場合、胸腺におけるT細胞の生成が阻害された。その結果、胎盤にてT細胞が不足し、流産率が増加した。
合わせて、正常な妊娠では、T細胞が母体の脂肪組織に移動し、炎症を抑制し、母体のグルコース(ブドウ糖)を制御することが判明した。妊娠期間に「RANK」が欠如したマウスは、血中グルコース値およびインスリンが上昇し、年齢平均より大きな体格など妊娠糖尿病の複数指標が検知された。
妊娠中、母体にてT細胞が欠乏することにより、誕生したマウスは月齢平均と比べて大きく、子孫に対して長期的な世代間影響を及ぼした。なお、研究チームは、マウスと同様に、妊娠糖尿病の女性において、胎盤のT細胞数の減少を確認している。
(画像はプレスリリースより)

IMBA
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