原因不明の妊娠損失と臭覚システム
ワイツマン科学研究所の研究チームは、「eLife」(9月29日掲載)にて、原因不明の再発性妊娠損失(URPL:原因不明の流産を繰り返す状態)と臭覚システムには関連性があると発表した。
今回の研究では、原因不明の妊娠損失(流産・死産)を繰り返す女性は、妊娠損失を経験しない女性とは異なり、異性の体臭における違いが分かり、それゆえ、「ブルース効果(哺乳類のメスにおいて、メスを別の新しいオスに曝露させると妊娠が中断される現象)」によって妊娠損失が生じると推測された。
原因不明の妊娠損失とブルース効果
原因不明の繰り返す流産・死産は、「ブルース効果」における人間の差異に関与している。「ブルース効果」では、妊娠中の雌マウスに対して、パートナー(妊娠中の子マウスの父)ではない雄マウスの体臭を嗅がせたところ、常に妊娠損失が引き起こり、妊娠中断現象および妊娠阻害現象が認められたという。
これまで、メカニズムの解明には至らなかったが、パートナー(妊娠中の子の父)以上に適した男性が存在するとの化学的なメッセージより、女性が妊娠中断および妊娠阻害を選択していると考えられてきた。
小さな嗅球と視床下部における体臭に対する反応増加
マウスを用いた動物モデル実験を通じて、1959年にヒルダ・ブルース(Hilda Bruce)氏は「ブルース効果」を導き出したが、雌は、子の父である雄の体臭を記憶していることが認められた。
今回、研究チームは、被験者の女性に対して、オドラント(匂い物質) 3種類(配偶者が着用したTシャツから抽出した匂い1種類、配偶者以外が着用したTシャツから抽出した匂い2種類)を嗅いでもらった。流産・死産を繰り返す女性では、配偶者の匂いを特定できたが、一方、流産・死産歴のない女性は配偶者の匂いが分からなかった。
実験を通じて、原因不明の流産・死産を繰り返す女性は、臭覚システムが顕著に優れていることが認められた。流産・死産を繰り返す女性の臭覚システムは、匂いの描写(比喩・表現)や評価において、流産・死産を繰り返さない女性とは大きく異なった。
構造的・機能的な脳画像を比較したところ、構造的画像より、原因不明の妊娠損失を繰り返す女性は嗅球(終脳の先端に位置する嗅覚情報処理に関与する脳組織)が小さいことが判明した。また、機能的画像では、原因不明の妊娠損失を繰り返す女性の視床下部にて、男性の体臭に対する反応の増加が確認された。
研究チームは、原因不明の妊娠損失を解明するうえで、流産・死産の原因は女性の子宮ではなく、脳の嗅球にあると考えられると結論付けている。
(画像はプレスリリースより)

Weizmann Institute of Science
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