欧米やアジアでは広く浸透
母乳が出なかったり、感染症にかかっていたりして、自分の母乳を赤ちゃんに与えられない母親に代わって、健康な人の母乳を集めて、殺菌処理などを行ったあと提供する「母乳バンク」。日本ではまだ馴染みのない制度だが、欧米やアジアの国々では広く利用されている。
その一例を見てみると、フィンランドのヘルシンキにある小児病院の母乳バンクは、約50年もの歴史があり、毎朝、母乳の余っている母親から母乳を集めて消毒を行い、母親のいない赤ちゃんに与えているという。また、米国と英国には母乳銀行と呼ばれるものがあり、地域の産婦人科と結びつき、厳しい基準のもとで母乳を寄贈しているそうだ。
このような母乳バンクの設立を目指し、6月14日に東京・品川区の昭和大学病院でセミナーが開かれ、全国から100人以上の医師たちが集まった。
背景には高齢出産による低体重児の増加
母乳バンク設立の背景には、不妊治療の発達などにより出産年齢が高齢化していることが挙げられる。高齢出産によるさまざまリスクから、体重が2500グラムに満たないまま生まれる赤ちゃんが増えているからだ。
母乳バンク設立の中心的なメンバーである昭和大学医学部小児科の水野克己准教授は「体重が2500グラムに満たない赤ちゃんに母乳を与えると、重症の腸炎にかかるリスクが抑えられるが、早産の場合は、母乳が出にくい母親が多い」との見解を示しており、今後も晩婚化などの影響で高齢出産の増加が見込まれる日本では、他人の母乳でも安心して活用できるような母乳バンクを早急に設立する必要があるとしている。
ただ、母乳バンク設立には、費用の問題や利用者の理解など課題もあるため、水野准教授は「病院内で小規模に始め、できるだけ早い母乳バンクの設立を目指す」としている。

昭和大学小児科学教室
http://www10.showa-u.ac.jp/~pediat/staff.html