「後継ぎ息子が欲しい」「三人目こそは女の子が欲しい」…。世間では“子どもは授かりもの”と言われる一方で、我が子の性別に強い希望を抱く夫婦は多いのではないでしょうか。近年、そんなニーズに科学的に応える技術が発達し、男女の産み分けをする人が急増しています。
それが、着床前診断。体外受精させた胚の染色体や遺伝子の検査を行い、受精卵の移植をする前に染色体や遺伝子に異常がないかを予め調べることができる技術です。この際、染色体の異常だけでなく性別も調べ、希望する性別の受精卵を卵巣に戻すことで、いわゆる「男女産み分け」が可能になるというわけです。パーコール法など日本のクリニックでも実施できる方法は確実ではないのに対してこの方法であればほぼ100%の精度で産み分けが可能。
日本では倫理的な問題などから産婦人科学会の会則で規制されていますが、海外では認められている国も多いこの方法。近年では、他国より安い金額で着床前診断を行えるタイのクリニックを訪れて「産み分け」を行う日本人夫婦が年間100組以上もいるといいます。
産み分けまでのハードル
こうした海外での着床前診断は、成功すれば理想の性別の我が子を抱くことができる一方で、失敗したときのリスクが大きいことを認識している方は少ないのではないでしょうか。
そもそも、体外受精の成功率は一般的に10~25%ほどと言われています。当然この確率は、夫婦の年齢や健康状態によって大きく変わります。質の良い卵子が採卵でき、受精ができ、細胞分割が進むのか…まずはそれが第一の課題。さらに、第二の課題として無事に受精卵が育ったとしても、希望の性別の受精卵ができるとは限らないし、希望の性別の受精卵を移植したところで確実に着床し出産できるわけではありません。全てをクリアして「出産」に至って初めて「産み分け」成功となるわけで、それは決して簡単なことではありません。
失敗時のリスクとは?
このように挑戦がうまくいかなかったとき、夫婦にはさまざまな負担がのしかかります。ひとつは金銭的な負担。海外に渡航しての着床前診断を含む体外受精は、一回につきおよそ100万~200万円。追加料金を支払って再度挑戦し続けるうちに莫大な金額になってしまうことも。
さらに、時間的なロスも大きい。海外渡航での治療は簡単に実現するわけではありません。エージェントとやり取りをしながら、1回目は夫婦揃って行かねばならないために夫婦それぞれ会社に休暇を申請したり子どもを実家に預ける手はずを整えたりしなければならず、日程調整にも時間がかかります。
また、肉体的、精神的な負担も忘れてはいけません。エージェントがつくとはいえ、長時間の渡航や慣れない海外の土地で採卵や胚移植は身体の負担に加え、ストレスはどうしてもたまってしまうもの。1回で運良く成功すれば良いですが、失敗し、数ヶ月、数年、と時が過ぎていくうちに、成功率も下がり、心身ともにボロボロになってしまう可能性もあります。
海外で産み分けをする場合、こういった問題を事前にどれだけ想定できているかが大切なのではないでしょうか。後戻りできなくなって大事なお金をつぎ込み続けている夫婦がいるのも現実。夫婦でしっかりと話し合った上で、それでも海外まで渡航し検査を受けるのか。納得した上で決めていただきたい。
(文:佐藤めぐみ)