染色体のみの取り出しに成功
高齢女性でも妊娠の可能性を高めることができるといった研究結果が、専門誌「リプロダクティブ・バイオメディシン」(電子版)に発表された。12日付の毎日新聞が報じている。
発表を行ったのは独立行政法人「医薬基盤研究所」の山海直主任研究員や永井クリニック(埼玉県)の大月純子博士らの研究チーム。
卵子の老化は、卵子の核外に存在する「細胞質」が加齢に伴い変質し、妊娠しにくくなることで引き起こされる。
卵子の核内にある生物の遺伝情報を担う「染色体」を抜き取る場合、これまでの方法では、細胞質に含まれるミトコンドリアDNA(デオキシリボ核酸)も一緒に取り出され、別の卵子に移植されていたが、同研究チームでは、不妊治療患者の同意を得て、治療に使えなかった未熟な卵子を培養する途中で、一時的に卵子の核内に散らばっていた染色体が塊になることに着目。直径5〜6マイクロメートルの極細の針を使い、卵子から染色体のみを取り出して、別の卵子の染色体と置き換え、さらに体外受精により受精させることにも成功した。
同研究チームが行った実験では、染色体を取り出した25個のうち13個が、別の卵子の染色体との置き換えに成功し、3個は精子と受精したという。
染色体置き換え技術で「卵子の若返り」が可能に
この技術を応用した場合、異常なミトコンドリアDNAが起こす難病「ミトコンドリア病」の遺伝を防ぐことができるほか、高齢女性の卵子の染色体を、染色体を抜き取った若い女性の卵子に入れる「卵子の若返り」が可能になり、若返った卵子でできた受精卵を子宮に戻せば、高齢女性でも妊娠できる可能性が高まるというのだ。
細胞質は若い女性のものを利用しているが、遺伝情報を担う染色体を持った核自体は高齢女性のものを利用しているので、高齢女性の遺伝情報をそのまま受け継がせることができる。この技術こそが、同研究チームが生み出した染色体の置き換え技術なのだ。
受精卵には、「精子」「卵子の染色体」「細胞質のミトコンドリアDNA」という3つの遺伝情報が受け継がれることから、治療に使うには、今後、倫理的な課題も浮上しそうだが、同研究チームでは、良好な卵子を使って、移植技術を向上させれば、受精率を上げることは可能とみている。
卵子の老化により、不妊治療の壁にぶち当たっている患者にとっては、今回の研究結果が一筋の光になることは間違いない。

独立行政法人 医薬基盤研究所HP
http://www.nibio.go.jp/index.html「リプロダクティブ・バイオメディシン」(電子版)
http://www.rbmojournal.com/